2012年4月18日水曜日

稲作文化:焼酎文化史(早苗饗)



 《焼酎文化史(早苗饗)
 「焼酎文化史(早苗饗)

 焼酎が稲作と共に日本に渡来したことを証明するものは、

 日本における焼酎原産地である鹿児島地方での言語である。

 この地方では焼酎を飲もうと人を誘うのに

 「祭(まつ)んそや(お祭りをしましょうよ)」という。

 この祭りの真意は、収穫した米を神々に供えたあと、その米で焼酎を造り、

 それをまた神に供えてから、晴れてみんなでいただく祭り、

 すなわち冬の間に造りはじめてから次の田植えに間にあった焼酎によって、

 今年の豊作を祈る「早苗饗(さなえあえ)」祭りをさしているのである。

 この地方ではそれを「サナブイ」という。

 これを正確に分析してみると、

 それは「サナエウエ」(早苗植え)であって、

 「サナエアエ」(早苗饗え)ではなかったことがはっきりわかる。

 サナエアエなら、この地方では「サネエ」と発音する。

 どこの方言にも一定した原則があって、

 それから、はずれては言語として役に立たないのである。

 鹿児島方言の古音は、ウはヴ(V)音のものが多い。

 しかし、アがヴに変ることはない。

 だから「ウエ」は「ブイ」と聞こえるのである。

 これを「サノポイ」と発音して「サノポリ」が

 語源だと思いこんでいる者もあるが、

 これは「ナ」は「ノ」の訛りだと早がてんしたために、

 「ノブイ」となり、意味をつけようとして「プ」も「ボ」に改めて、

 「昇り」(ノポリ)にコジつけた結果、生れた奇妙な人工語である。

 方言に対する劣等視が、

 無知と複合して生み出したもので、似た例は全国的にみられる。

 この早苗植えの語は孤立しているのではなくて、

 『南島雑話』には奄美大島では「さうり遊び」というと記録している。

 「さうり」が何を意味するかについては、

 『琉球国由来記』に「さうり、とは、苗植え始め申す事」とあるから、

 「サナエウエ」が「サウリ」と短縮したものとわかる。

 また正確にいうと、

 鹿児島から沖縄にかけての南九州方言には、「リ」のような「ラ行音」はなかった。

 これも記録者が「サウイ」を「さうり」と誤訳して書いたものである。

 この地方ではエはイに、オはウに変る。

 「植え」は「ウイ」と変る。

 ところが、

 この誤訳の「さうり」が、

 はるかに飛んで遠州(静岡県)に分布していたことが

 『俚言集覧』に出ている。

 この理由を考えてみると、

 この地方は登呂遺跡が証明するように弥生稲作地帯であり、

 この語の分布はこの地域の弥生人たちが、

 沖縄、奄美地方からの移住者であったと考える以外にない。

 同じ『俚言集覧』はさらに上総(千葉県)では

 「五月初めて苗を植るをサオリという」と書いている。

 「ウ」が「オ」に変って、一層、東国方言化してはいるが、

 それが沖縄からの一連の言語であることはいうまでもない。

 五月を「サツキ」というが、

 五月が水稲の苗を植える月であることを考えると、

 サツキのサは、このサウイ、サウリ、サオリの

 サであったことも疑いの余地がないであろう。

 またこのことはサとは決して早いことではなく、

 水稲そのものであることも教えている。

 サナエとは早い苗ではなく、水稲の苗であったから、

 「水稲(サ)植え(ウイ)」だったのである。

 決して「早植え」ではない。

 このサは、

 マレー語で田のことを「サワ」ということと同じ語源をもっているのである。

 このことを拡大して考えてみると

 「サツマ」は「サ(水稲)ツ(津=古語の助詞の之(の))マ(古語で国のこと)」

 すなわち「水稲之国」になる。

 そこが焼酎原産地だということは決して偶然ではない。

 しかもさらに焼酎工場の本州分布をみると

 出雲、信濃、伊勢といった神話圏と、

 前記の静岡、千葉、茨城、福島といった

 日本武尊(やまとたけるのみこと)伝承の分布地に

 かたよって一致することがはっきりする。

 これは途中の伝承が断絶してはいても、

 焼酎そのものが、

 前にあげた数々の証拠と共に弥生時代に分布したとしか、

 考えるほかない形を示している。

 焼酎もまた謎の古代史を解明する重要な文化財であるという考えは無理であろうか……。

 ※出典:加治木義博「焼酎入門・保育社・カラーブックス:134~136頁」

 『参考』
 『言語復原史学会:Web』
 『言語復原史学会:画像』 
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 《参考》
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